肩が痛くて眠れない「五十肩」の治療
五十肩に対して、鍼灸治療は有効な治療法です。江戸時代の「困学穴法」という書物には、当時、「長命痛」と呼ばれていた五十肩の治療法が記されています。現在では、西洋医学同様に鍼灸治療も、急性期、拘縮期、回復期と五十肩の病態に合わせて適切な治療が可能です。また、薬のような副作用もなく、鍼とお灸があれば患者さんの体質、病態にあわせて刺激方法を変えるだけで対応できる便利な治療法となります。
※出典 早稲田大学 古典籍総合データベース
- 夜に肩が痛くて眠れない
- 肩から腕まで重だるい
- 肩の痛みで顔を洗えない
- 一人で服を脱げない
五十肩の症状は人それぞれですが、なんとなく治療を続けていませんか?
- とりあえず注射
- とりあえず痛み止め
- とりあえず湿布
- とりあえず電気
- とりあえずリハビリ
といった「とりあえずの処置」をしてるだけで五十肩は治りません。
五十肩は、適切な治療をすれば楽になります。それが鍼灸治療です。
五十肩とは
「五十肩」という言葉は、古くから用いられ、五十歳ごろに肩から腕までの症状が現れる人が多かったために、庶民の方々が俗語として口ずさむようになりました。
五十肩を医学用語として五十肩を定義した時、特殊な原因が断定しにくく、肩の関節を中心に痛みと運動制限、例えば
- 手を挙げる
- 顔を洗う
- 髪の毛を洗う
などの動作が困難な状態をさすようになりました。
五十肩の原因
五十肩の症状があらわれる時、肩の関節では、年齢による退行性変化で組織が傷つきやすくなった腱板(肩の関節を構成している筋肉)に外傷が加わり、肩峰下滑液包に部分断裂、出血、壊死を起こさせている状態が多いです。
五十肩とは、中年以降に加齢的退行性変性を基盤として発生する疼痛性肩関節制動症
漠然としている五十肩ですが、その影響か五十肩の研究の歴史は古くから行われているにも関わらず未だ明確になっていないところもあります。ただ、患者さんの状態としては、原因となる場所が特定しています。
- 肩峰下滑液包の癒着
- 上腕二頭筋長頭腱の結節間溝への癒着
- 腱板の壊死性変化と炎症性硬化
- 関節内滑膜の慢性炎症
- 関節滑膜膨隆部の癒着
上記の中で、肩峰下滑液包の癒着が最も重要とされています。そして、癒着を生じさせる原因は棘上筋腱の断裂、壊死にあります。また、上腕二頭筋長頭腱で同様の変性がおこることもあります。
一方、肥厚した関節包が骨頭関節軟骨に癒着していた例もあり、この3種が五十肩を引き起こしている病態的原因となります。
そして、女性の五十肩で重要なことは、女性ホルモンの分泌量の変化に伴い、肩関節や、筋肉、腱の部分が石灰化しやすい傾向にあることです。石灰化の症状は、ある一部分に激しい痛みが出ることです。
五十肩の状態
五十肩の症状は、発症から3期に分類しています
1.freezing phase 急性期
症状の発現から増悪する時期で、painful phase、疼痛性痙縮期とも呼ばれています。
症状は、明らかな原因がなく、漠然とした痛みからはじまります。時にこの痛みは肩の付け根である三角筋と呼ばれる筋肉の付着部に限局することがあります。
痛みは一度あらわれると急激に強くなることが多く、典型的な例では、動作時の痛みだけでなく、安静時でも痛みを感じ、C5、C6頚神経支配領域(肘の外側から腕の親指側)にまで痛みが拡がることもあります。
2.frozen phase 拘縮期
五十肩の症状、第2段階の拘縮期では、「肩を動かした時の激痛」や「何もしていなくても痛む」といった症状が和らぎ、同時に肩の関節が固まって動かなくなる時期です。今までのような激痛で動かせない時と違い、痛みはなくてもとにかく固まってしまい、だんだんと進行していきます。この時期の患者さんの訴えは大部分が動かないという運動制限ですが、時に患者さん自身が運動制限を自覚しておらず、運動時痛のみ訴えられることもあります。この時期は通常4~12ヶ月続きます。
3.thawing phase 回復期
第3段階となる五十肩の回復期では、関節の拘縮が徐々に改善し、これに伴い痛みや不快感が薄らいでいく時期となります。完全に症状が消えるまでは6~9ヶ月前後となります。特に、運動不足の方、糖尿病など血液循環の悪い状態にある患者さんは治りが悪い傾向にあります。五十肩の治療では、患者さんの状態、生活環境や性格などを考慮して個々に適した治療方針を考えていきます。
病院、接骨院での治療
薬物療法
五十肩の治療で最も多いのが、薬物療法です。一般的に、薬物療法では、痛み止めの飲み薬、湿布、塗り薬となります。この中でも、痛みが比較的強い場合は、鎮痛薬を注射したり、ステロイド系の薬を使う場合もあります。
理学療法
ほぼ同時進行でおこなわれる理学療法では、ホットパックやマイクロ波、超音波、遠赤外線など温熱療法と呼ばれるものが主体となります。そして、病気、病態に合わせて、低周波などの電気刺激、運動療法などのリハビリをおこないます。
特殊な治療法
マニピュレーション
マニピュレーションとは、麻酔下徒手的授動術のことで、五十肩の状態があまりにもひどい時におこなう治療法です。患者さんに全身麻酔をかけて、強力な力で一気に肩の関節を動かし可動域を拡大させる方法、いわゆる荒療治となります。当然、関節包を断裂させて関節血腫、腫脹を引き起こすだけでなく腱板断裂、骨折、脱臼を引き起こすこともあるので、あまりやらない方法です。
五十肩に対する鍼灸治療
五十肩のツボ:外関
外関は、五十肩の特効穴と呼ばれるツボで、症状があらわれ始めた時期に使うことが多いです。外関とは、外との関所の役割を意味しています。外とは、体の外を指し、体に影響を及ぼしやすい冷えや風を体内に侵入してこないように守るための場所です。
気温が低い時、強い風が吹いて体感温度が寒く感じる状況では、冷気が外関から侵入してしまい、腕から肩の関節まで伝わって五十肩の症状があらわれます。
五十肩のツボ:肩ぐう
肩ぐうは、腕を水平に上げると、肩関節の前後にあらわれる2つのくぼみの前側です。肩ぐうはもともと五十肩の原因とされている肩峰下滑液包の部分に位置するため重要なツボとなります。
東洋医学の考え方では、肩ぐうは、手足にたまった熱を抜き取る作用があり、五十肩の始まり、また脳卒中や蕁麻疹(じんましん)、アトピー、関節リウマチなどの症状にも治療で使用します。
五十肩のツボ:結節間溝
結節間溝部とは、ツボの名前ではなく、解剖学的に五十肩の症状があらわれやすい部分にあり、局所的な治療かつ、損傷した組織の本質的な治療となります。
五十肩の病変が、上腕二頭筋長頭腱にある時、腱が結節間溝に癒着するとされているため、この部分に治療をおこないます。
(もともと、腕を動かした時、結節間溝部で長頭腱は4cm前後動くとされています。この動きが痛みや可動域制限といった症状としてあらわれます。)
五十肩のツボ:天宗・膏肓
天宗には、五十肩に関係する腱板があり、五十肩の症状に連動して固まってしまうため、動かしやすくすることを目的として治療をおこないます。
「病膏肓に入る」という故事のことわざがあります。ことわざの意味は「あることに熱中しすぎて手がつけられなくなること」をいいます。
もともとは、「膏」とは心臓の下の部分、「肓」とは横隔膜の上の部分のことで、ここは治療が困難な場所と比喩されています。それほど、人体にとっては重要なツボとなります。
五十肩の治療で使用するツボはこれだけではありません。
患者さん一人ひとりの体質、生活習慣に合わせた治療法を計画し、確実に楽になるよう治療を進めていきます。
- 夜中に肩の痛みが強くなる
- 肩が痛くて腕があがらない
- 肩の痛みで顔を洗えない
- 一人で服を脱げない
など五十肩のお悩みには1日でも早く鍼灸治療をお試し下さい。