自律神経失調症

自律神経失調症は、交感神経と副交感神経のバランスが崩れた時に生じる病気です。そして、鍼灸治療は、自律神経失調症に最も効果のある治療法の1つです。鍼灸治療は、薬のように副作用もなく、自分で自律神経をコントロールできるように促してあげる治療法でもあります。

鍼灸は馴染みのない治療法かもしれません。また、肩こりやひざの痛みなど、お年寄りや痛みに対しておこなう治療だと思われる方も多いのではないでしょうか。

しかし、鍼灸治療は、本来、自律神経の働きを意図的に整えることができる治療法です。
WHO(世界保健機関)の伝統医学部門、鍼灸に関する報告書の「臨床試験によって有効性が証明された」という疾患・症状には、うつ症状、頭痛、頚部痛(首の痛み)、腰痛、吐き気、低血圧、高血圧などが明記されています。また、頭痛に対しては、日本頭痛学会のガイドラインの中で最も効果のある治療法の一つとして鍼灸治療があげられています。

自律神経失調症 4つのタイプ

心身症型自律神経失調症

日常生活のストレスが原因です。心と体の両面に症状があらわれます。自律神経失調症の中で、もっとも多いタイプです。几帳面で責任感があり、努力家のまじめな性格の人がなりやすいです。

抑うつ型自律神経失調症

心身症型自律神経失調症がさらに進行した重度のタイプになります。

やる気が起きない、気分がどんより沈んでいる、といった「うつ症状」が見られます。

肉体的にも、頭痛、微熱、だるさ、食欲がない、不眠などの症状があらわれます。身体の症状の陰に精神的なうつも隠れていますが、病院では、身体症状を改善するための鎮痛剤、精神安定剤など対症療法しか受けられず、長い間、不快な症状に苦しむ人が多いようです。几帳面な性格や、完全主義のタイプが陥りやすいです。

本態性自律神経失調症

ストレスに弱い体質、生まれつき持っている体質に原因があります。自律神経の調節機能が乱れやすい体質のタイプです。

虚弱体質の人や、低血圧の人、発達障害に多く見られます。病院で検査をしても特に異常が見つかりません。日常生活のストレスもあまり関係しません。

本態性型は、体質そのものに原因があります。体質改善をするためは、鍼灸治療しながら、食事、睡眠、運動、休息などの生活習慣を見直していく必要があります。

神経症型自律神経失調症

ストレスに弱い性格、心理的な影響が強いタイプです。

自分の体調の変化に非常に敏感で、少しの精神的ストレスでも体調をくずしてしまいます。

感受性が過敏なため、精神状態に左右されやすいタイプです。感情の変化が体に症状として現れます。

自律神経失調症とうつ病の違い

自律神経失調症は、自律神経がストレスによって交感神経と副交感神経のバランスが崩れ、正常に機能しないことによって起こるさまざまな症状の総称です。

一方、うつ病は脳の神経細胞の間で「神経伝達物質」と呼ばれるセロトニンやノルアドレナリンの量が減って、情報がうまく伝わらないために、さまざまな症状があらわれる病気と考えられています。

うつ病の中にも自律神経症状はよく認められます。しかし、うつ病では、自律神経失調症とは診断しません。あくまで状態であり、自律神経症状です。

自律神経失調症の治療

自律神経失調症の治療目的

  • ストレスを和らげ、自律神経症状を改善する
  • 身体症状が改善することで、悪循環をなくす
  • 二次的なうつ状態や不安障害を改善する

自律神経失調症では、交感神経が過緊張状態であることが多いです。そのため、薬でも鍼灸でも交感神経の興奮状態をいかに鎮めてあげるかが症状改善の近道となります。

薬の大きな目的としては

  • ストレスやを和らげる「こころの薬」
  • 身体症状を和らげる「からだの薬」

があります。

こころの薬としては

  • 抗不安薬(精神安定剤)
  • 抗うつ剤
  • 睡眠薬

が中心です。

一方、からだの薬として

  • 嘔吐に対しての制吐剤
  • 腸症状に対しての胃腸薬
  • 頭痛や肩こりに対しての筋弛緩薬

などがあります。

自律神経に対する鍼灸治療の効果

鍼灸治療には、自律神経を調節する方法があります。

自律神経を調節する方法としては、

  1. 副交感神経機能を高める方法
  2. 交感神経機能の過緊張を改善する方法
  3. 交感神経機能を高める方法

などがあります。

1は、軽度の自律神経失調症もしくは再発防止の管理のために。
2は、自律神経失調症の症状が強い場合。
3は、どちらかというと起立性調節性や喘息発作に対して活用することが多いです。

自律神経の機能は、呼吸、体位(あおむけ、横向き、座位、立位)、刺激方法、刺激部位によって変化します。
この性質を利用して、症状に合わせて一定の法則で鍼灸治療をおこなうと、自律神経機能の乱れが改善され、正常に働くようになります。

効果1:心拍数の減少

自律神経失調症の患者さんは、心拍数が多くなっている傾向にあり、副交感神経抑制状態にあるといえます。

前述の鍼灸治療をおこなうことにより、治療中から心拍数が低下していきます。これは、副交感神経機能が活性化し、自然治癒力を高める理想的なリラックスした状態になるということです。

効果2:血圧の低下

血圧が高い、イライラする、眠れない、頭痛がする、手足が冷える、浮腫むなど交感神経機能の高まりが原因で起こる症状に対し、全身的交感神経機能の過緊張を解く作用のある鍼灸治療をすることで前述した症状が改善していきます。

効果3:片頭痛の改善

疲れやすい、低血圧、朝起きれない、片頭痛がする、立ちくらみがする、夕方になると足が浮腫むなど交感神経機能の低下によって起こる症状は、全身的交感神経機能の適度な亢進作用が望める鍼灸治療を行うことで血管の緊張性も高まり、特徴的な諸症状を改善させてくれます。

鍼灸治療のながれ

  1. 01 問診

    ストレスに弱い体質や性格、ホルモンの乱れは、身体の内部から自律神経症状を引き起こします。

    一方、仕事や家庭でのストレスは身体の外部からの原因となります。

    そのため、問診では患者さん自身が気になる症状、気になる時の状況、増悪因子、緩解因子等をお聞きし、かつ、本人が自覚していなく、こちらから質問した時に「そういえば」と思い出すような症状も見逃さないようにします。

    同時に、糖尿病、脳梗塞、パーキンソン、子宮内膜症、生理痛など自覚している病気も確認し、主訴との関連性を把握します。

  2. 02 検査

    自律神経の鍼灸治療

    除外診断

    自律神経失調症と診断するためには、問診で確認した病気を含め、更年期障害、バセドウ病(甲状腺機能亢進症)、心身症、過敏性腸症候群、うつ病、狭心症、起立性調節障害など、似たような症状で考えられる病気すべてを除外していきます。そのために、病院での検査結果をお持ちの患者さんには確認させていただく場合もあります。

    自律神経失調症は、自律神経自体に問題はありません。
    自律神経失調症は、ストレス、不安、うつなどの精神的な問題により動悸、頭痛、体の重さ、しびれ、めまい、過呼吸、下痢、ほてり、多汗など自律神経が支配する様々な臓器の不調を示す症状がみられるものです。

    心理テスト

    症状の背後にある心理的要因を調べていきます。自律神経失調症の多くは、心理的な要因が深くかかわっていますので、その心理的要因を探ることが、診断や治療において重要となってきます。

    心理テストには、神経症傾向を見るCMIやTMI、ストレス度を見るSCLやストレス耐性を見るSTCL、性格的特性を見るY-G性格検査、不安の度合いを見るMAS、うつ状態の度合いを見るSDS、精神・心理・人格を多面的に評価するMMPIなどがあり、基本は面接や問診ですが、同時に質問表に記入してもらうケースがほとんどです。質問表には、体の状態だけでなく心理状態についても記入します。
    これらの検査は、TMIでは体の症状について43の質問、精神的な症状について51の質問があり、CMIでは、身体的自覚症状に関する質問132項目、精神的自覚症状に関する質問51項目、既往症を問う質問15項目、行動や習慣に関する質問6項目、合計204項目もあります。
    すべて一度におこなうのは、自律神経が乱れている患者さんにとって苦痛、不可能な場合が多いです。

    当院では、問診の中で確認できた項目から鍼灸治療をおこない、改善できるようにしていきます。

  3. 03 鍼灸治療

    自律神経失調症の鍼灸治療

    治療は、ベッドに横になってリラックスしていただいた状態でおこないます。

    体の状態が冷えているのか、硬く緊張しているのか、背中とお腹、体幹と四肢で違いはあるのか、一部の組織が炎症反応を起こしているのか、患者さんの主訴と関連する部分はあるのかなど把握したうえで状態に合わせたツボに鍼灸治療をおこないます。
    鍼は髪の毛と同じくらいの太さ0.1mmほどです。

    治療は、前述の通り、体位や刺激歩法によって効果が異なります。
    患者さんの状態によって、交感神経の過剰興奮の場合、交感神経がほとんど興奮していない状態など把握してから適切な治療法方を選択します。

    自律神経失調症の鍼灸治療

    お灸は、火が直接肌に触れないものを使用していますので、火傷やお灸の痕が残る心配を極力減らします。

    お灸は、自律神経の乱れを整えるリラックス効果だけでなく、温めることで血行の促進や免疫細胞を増やし抵抗力を高める効果もあります。また、鍼治療の後にお灸をすることで、治療効果が持続する作用もあります。

  4. 04 電気光線療法

    低周波治療

    患者さんの症状によっては、鍼や灸に加え、さらに血行を促すための電気治療を併用する場合があります。

    電気というと「ビリビリ」という刺激のイメージが先行しがちですが、実際にはついつい眠ってしまうような心地良い感覚です。

    この治療は体の表面を刺激することで、深部の筋肉にまで刺激が届き血流改善をうながす治療法です。

    また、電気の種類によってか、交感神経の過剰な興奮を鎮める骨格筋刺激をおこなうこともあります。

    当院では、国家資格の鍼灸師が治療を担当させていただきます。